あらゆる業界で「DX」化の波が広がっているが、特に喫緊の課題とされているのが教育面での普及。新型コロナウイルス感染拡大の影響で授業がオンラインへと移行され、平等で質の高い教育が求められています。
学校教育の中でどのようにテクノロジーが活用されているのか、今後の課題について、一般財団法人沖縄県私学教育振興会の金城泰事務局長に話をお聞きしました。

金城事務局長
金城事務局長

現在の学校教育全体が抱える課題として、最も大きいのは、近年、新型コロナウイルス感染症の爆発的な感染拡大によって対面での授業が難しくなったことです。この先、感染拡大が収束に向かったとしてもこの流れは止められないでしょう。「DX」化はもともと進めなければいけない状況ではありましたが、このたび新型コロナの影響で大幅に早まったと言えます。

「DX」化をいち早く実践してきたのが専門学校です。手に職をつけるという意味で、資格取得や公務員試験といった分野で幅広く活用されています。試験の際に問題の内容が漏洩するのではという懸念もありましたが、不正がないようランダムに出題されるなど、最新の技術を駆使したうえで、新たな仕組みを構築しています。

一方で、認定こども園や幼稚園、小学校・中学校・高等学校では、すべての授業や試験をデジタル化することで、コミュニケーションスキルや個性を活かすための教育が不足するのではないかという懸念があります。教育は画一的にフォーマットへ当てはめることが難しいものです。教員やクラスメイトと直接顔を合わせて話し、意見を交わすことで、距離感やニュアンスが伝わります。オンラインでどこまでできるかは未知の部分が大きいと考えています。
学校教育や組織体制が今後どのように変化していくのか、まだ完全に見えていない状況だけに不安もありますが、デジタル化の流れに遅れることなく、うまく使いこなしていく必要があります。

テクノロジーを活用することで、良くなる面もあります。定められたカリキュラムを好きな時間にこなすことで単位が取得できる、個々のスタイルに合わせて自由に学べるという点です。沖縄県内においても、通信制高等学校などで実際に活用されています。一定期間のスクーリングを除けば遠隔で授業を受けることができることから、県外在住の生徒も増えているとのことです。

ただ、どれほどデジタル化が進もうとも、学校が不要になるということはないと思います。「人」は互いに支えあい生きるものです。どんなに生活が便利になったとしても、最終的に決めるのは「人」であり、機械ではありません。大切なものは残し、便利なものは必要に応じて使っていく。寛容な心を持つ「人」こそが「DX」を使いこなしていくことこそが今後ますます重要だと思います。

たとえば、人生はゲームやパソコンのようにボタンひとつでリセットすることができません。友達に怪我をさせてしまったらどうするか、家族と喧嘩してしまったらどうするか、そういったことに対応するためには、モニター上でなく直接体験するしかありません。 「人」として大切なことを無視してすべてをデジタル化すると上滑りになってしまいます。
少子高齢化で将来の子供たちへの負担が増えることが確実な中で、社会の仕組みを維持していくためにも、今こそ「人」同士のつながりは非常に重要だと考えます。

新たな時代の教育のため教員のIT知識と技術を向上させること

ネットリテラシーに関する教育も重要になっています。フェイクニュースの見極めやネット上の誹謗中傷について、判断力や思考力を身に着けることが必要です。子供は純粋なだけに、偏った情報を安易に信用してしまうおそれがあるためです。これは現代社会ならではのもので、我々が子供であった時代にはなかったことです。教える側の教員も相応のIT知識と技術を身につける必要があります。

また、デジタル化によって格差が拡大することにならないように配慮が必要です。オンライン授業用のタブレットやWi-Fi機器を配布しているところもありますが、家庭環境によって学びの機会に差が生まれないよう、すべての「人」を取りこぼさないよう、学校運営に不可欠な支援について取り組んでいくことが私共の役割でもあります。

教育の仕組みそのものが変化していくなかで、専門家の存在も重要です。生徒だけでなく、まずは教員が変わらなくてはいけません。たとえば、興南高等学校の我喜屋優理事長先生が代表者として「おきなわ学びのネットワーク」という任意団体を立ち上げておられますが、そこでは生徒や教員への定期的な研修を実施するなど、様々な教育支援を行っております。参加された皆さんが新しい情報や知識を手にされるだけでなく、公立や私立といった垣根を超えた参加者同士の交流が生まれております。私共も微力ながら、この取り組みを応援しております。
今後、教育の質を高めるためには学校現場の教員の更なるITスキルの向上が不可欠です。ただし、ITの専門知識を持つ人材は多くありません。学校としても専門家を雇用するほどの余裕があるわけではなく、教員へのIT教育にも時間とコストがかかります。ITに係る人材確保、スキル向上のための支援を国が適切に進めることも今後重要になっていくと考えております。

一方で、ポジティブにとらえれば、「DX」化によって人材が都心に集中することなく、大手企業が拠点の一部を地方に移したり、地方に住みながら遠隔で働くワークスタイルが拡がったりという新たな動きもあります。沖縄県にはITに強い人材が多いといわれており、今後さらにIT教育を進め、優秀な人材を増やすことによって、沖縄県全体の平均収入を上げることも可能になるものと思います。そのためにも、子供たちの教育にかけるコストと時間を軽視してはならないと考えます。