沖縄県の農業従事者の7割弱が65歳以上という状況の中、農業就業人口減少と耕作放棄地の増大を食い止めるため、農業のDX化が注目されています。国内、海外での取り組み、10年後の沖縄の姿について、JAおきなわの普天間朝重代表理事理事長にお聞きしました。
農業のみならず、観光や飲食など様々な産業とITでつながってそれぞれが豊かになることを目的にDX化に取り組んでいます。
先進国を例に挙げると、たとえばドイツは製造業を強みに発展していったものの、日本や中国、韓国で安い人件費で高性能の製品が作れるようになると、自国の製品が売れなくなり、ITを駆使して危機を乗り越えました。製造工程の多くを自動化することで、アジア諸国との競争に打ち勝っていったのです。アメリカや中国も競い合うように技術力を高めています。日本国内でも、昨今は新型コロナによる影響もあり、またSDGsの観点からも、変革が求められる時代になっています。様々なビジネスが形を変えていくなかで、農業もまた例外ではありません。
農業における課題は多くありますが、ひとつは農業就業人口の減少です。農業従事者は毎年減り続け、耕作放棄地が増え続けています。
もうひとつ、大きな課題として、沖縄の農業は離島が中心になっていますが、人口減少が激しいことです。若者が島を出て本島や県外に出て、地元にはお年寄りしか残っていない。体力低下を理由に農業をやめてしまう方も多く、地元の生活が立ち行かなくなってしまう。国や県も改善に取り組んではいるものの、決定的な解決策があるわけではなく、現在では農業従事者の7割弱が65歳以上という状況です。海外からの研修生もコロナの影響で来日が難しくなり、収穫期の人手不足の状況です。
労働力を補うためにも、作業の機械化が必要です。新たな沖縄振興計画に合わせて、今後10年の農業の在り方を考えていかなければなりません。コストを抑えて生産性を高めるため、機械化の予算をどう捻出するかを真剣に考えていかない限り、10年後の姿を描くことは難しいといえるでしょう。
DX化は生産力向上だけでなく新たなブランド作りにもつながる
では、機械化によってどれほど労力削減できるか。もちろん品目によりますが、たとえば園芸はほぼすべてでハウス栽培が可能です。植え付けや収穫は繊細な作業で、人間の手でやるしかありません。しかし、一方で、さとうきびの収穫はほとんどを機械化することに成功しています。さらに、植え付けや肥料を入れる作業も機械化を進めています。畜産に自動給餌システムを導入しているところも増えています。高単価で環境整備しやすいものはICTの親和性も高く、ステップ1として様々な取り組みが進められています。
沖縄ではまだそれほど広がっていませんが、全国的に見ると様々なDX化が見られます。北海道では搾乳の自動化も進み、センサーで熟した苺を見分けて自動的に収穫するシステムも注目されています。
あとはこれらのシステムをどう管理していくかが問題です。たとえばオランダでは政府が価格まですべて徹底管理することで機械化のスピードを速め、価格を安定させています。
農家が単体で行うには、機械が高価であること、操作やメンテナンスが複雑であることなど難しい部分も多い。受託組織を作り、一括管理して、各農家の注文に応じてリースするなど、JAが担うべき役目は大きいと感じています。
DXは省力化と同時にブランディングにも大きく影響します。マンゴーの集荷に自動選別機を導入することで、マンゴーの糖度を正確に計測、大きさも自動的に判別できます。人が手で触れて、包丁で切らなくても、クオリティを数値化して証明できます。糖度センサーで質のよいプレミアムマンゴーを作り、さらに付加価値をつけて販売することができるというわけです。労働力補完、生産効率向上に加えて、ブランド力強化にもDXが大きく作用します。
畜産分野においても、これまでは、牛がいつ発情するか、繁殖に適した時期はいつかを農家が毎日目で確認し、体温計で一頭一頭検温しています。しかし、近年は専用のカメラを導入して管理室で映像をチェックするだけで管理できる施設も増えています。管理センターを作り、クラウド化することで、コストを抑えて作業量を減らすこともできるはずです。
大規模な企業であれば導入は可能でしょうが、沖縄の場合はひとつひとつの農家があまり大きくないため、個別に導入するのはコスト面で難しいという現実があります。国や県が農地を買い取り解放することにより、新規就農者含め多くの人々がIT農業を手軽にはじめられるようにする工夫も必要ではないでしょうか。かつては耕作放棄地をJAが買い取って整備したこともありましたが、同じように思い切った政策が今必要だと考えています。農業が抱える大きな課題を乗り越えるため、ITの力が必要なのです。