新型コロナウイルスの影響を受けているのは飲食店ばかりでなく、店舗に酒類を卸す酒店も大きな危機を迎えています。
生存をかけ、また顧客の利益を守るため、古い常識を捨て新たな挑戦を進めているのがリカーショップ新城。業界のトップを駆け抜けるIT戦略について、神谷厚仁代表取締役社長(以下、神谷氏)、渡口桂輔常務取締役(以下、渡口氏)に、お話を伺いました。
神谷氏:実はぼくは二代目で、先代からリカーショップ新城を受け継いだときから、新しいことに積極的にチャレンジしてきました。店舗改装や土日でも電話1本ですぐに届ける配達スタイル、店頭での生ビールの販売と様々な取り組みをしてきて、業務のデジタル化もそのひとつです。これまでアナログでやってきた業務の一部をデジタルに切り替えようということはかなり前から進めてきました。
渡口氏:酒屋というのはもともとアナログな仕事で、注文票や顧客管理も紙にペンで書きこむスタイルがずっと続いています。もちろん、人間なので書き間違いもあるし、配達の途中で紛失してしまったり、雨で濡れて字が読みにくくなってしまったりということはざらです。
神谷氏:注文も基本的に電話注文なので、忙しい週末なんかは店内が騒がしくて、注文内容が聞き取れないこともあります。電話は2本引いていますが、時間帯によってはどちらも通話中で注文の電話が受けられないこともあります。注文ミスや聞き間違いなどのヒューマンエラーを減らすためにも、記憶でなく記録に残すようにしないといけない。そのためにデジタルの活用は必要だとずっと考えていました。具体的には、注文伝票をすべてデジタルにするだとか、注文受付をスマホでできるようにするだとか、あとは現金のやりとりもできるだけなくしたいですね。すべてをオンラインでできるようになったら細かいミスも減るはずです。
渡口氏:現在は、Salesforce、CRM、FSAを使って顧客管理や新規出店管理を行っています。他のところではあまりやっていないことだとは思いますが、まずは取り入れてみようということで、いちから学んでいるところです。はじめて約1年ほどですが、膨大な数のデータをまとめて管理できるのはかなり助かっています。導入して正解だったというのが現状の感想です。
神谷氏:もちろんコストはかかりますが、長期的な視点で考えると重要な投資だと考えています。今後も新たなシステムを積極的に導入していきたいですが、やはりネックになるのは金銭的な問題です。我々がシステムを取り入れても、お客様が端末を持っていない、操作ができないというのでは意味がないですよね。うちは小さな会社ですし、顧客もほとんどが小規模な居酒屋やバーが多く、ただでさえコロナ禍で苦しいなかでそんなコストを強いることはできません。業界が一体となって取り組めればいいのですが、これまでアナログに頼ってきただけに、一度にまとまって大きく変化するのは難しい状況ですね。
渡口氏:顧客管理や在庫管理、伝票整理といった雑務をデジタルにまかせることで人件費を削減し、よりよいサービスのアイデアや営業ツールの開発といったクリエイティブな業務に注力できます。デジタル化できる作業と人間でなければできない作業のバランスはどの業界にとっても大事になってくると思います。
YouTubeやSNSを活用しBtoCのサービスを向上
神谷氏:その他の取り組みとして、今後は自社でアプリ開発もしたいんです。実はコロナ禍の前からウェブサイトをリニューアルしていて、店舗だけでなく個人宅への宅配もはじめたんです。酒だけでなくソフトドリンクやミネラルウォーターも配達しているんですが、お年寄りや高層マンションの住民の方々にとても喜んでいただいているんです。買い物がしにくい方々に必要なものを運ぶことは、社会貢献のひとつだといえると思います。これからは我々酒屋も営業利益向上だけでなくそういったこともしっかり考えないといけない。今後はECサイトもさらに充実させて、定額料金を支払っていろんな酒が楽しめるサブスクやお中元や新築祝い、開店祝いも手軽に注文できるようにしたいと思っています。
渡口氏:コロナが長引いているなかで、早く終われと祈るだけでなく、この機会に新しいサービスを生み出せるのではないかと考えています。BtoCのサービスを向上させるために、YouTubeチャンネルも開設しました。ビーチパーティで使うビールサーバーの使い方やおいしいビールの注ぎ方を社員が実際にレクチャーしています。
神谷氏:単にカスタマーサービスというだけでなく、実際にこの動画をアップしてから、取り扱いやトラブルに関する問い合わせやクレームが減ったんです。これまでは問い合わせもすべて電話で受けて口で説明していたので、問い合わせが減っただけ対応時間を他の作業にあて、注文の電話を多く受けることができるようになりました。動画だけでなく、SNSを活用して店舗や商品のPRを行うなど、新しいツールやシステムはどんどん取り入れていきたいと考えています。
プロと素人の間をつなぐ架け橋のような存在が必要
神谷氏:金銭的な課題と、もうひとつは、人材不足も深刻です。うちのような中小企業は社内にIT専門家がいないため、みんな独学でやるしかない状態です。作業量を考えれば新たに部署を設置するとか雇用するとかいう余裕もないですし。
渡口氏:わたしもまったくの独学で、ネットで調べながらはじめたので、最初はかなり苦戦しました。業界用語も多く、戸惑って何度もあきらめそうになりました。たとえば、定額制でそういった専門的な指導をしてくれるコンサルタントやアドバイザーがいてくれたら助かるかもしれません。全般的なサービスのアドバイスや問題解決のためのヒントをくれるとよりありがたいですね。
神谷氏:相談窓口もあるのはわかっていますが、まったくの素人がいきなり手を出そうとしても、そもそもなにからはじめていいのかわからないというレベルなので、課題をうまくまとめられるチェックシートや必要な業界用語を翻訳した資料がないと話がかみ合わない気がします。ITに苦手意識を持っているひとでも気軽に最初の一歩を踏み出せるような工夫があるといいですよね。
渡口氏:さきほどもいったように、素人とプロの間をつなぐアドバイザーも必要だと思います。難解な言葉をわかりやすくかみ砕いて、中小企業に寄り添ってくれる存在がほしいですね。